現代の万里の長城とも呼べる、長大な壁がイスラエルでも、イラクでも建設されている。その建設の目的は述べるまでも無い、民族と民族、宗派と宗派を分離することによって、攻撃を止め安全を確保するというものだ。
イスラエルではイスラエル領土と、ヨルダン川西岸地区との間に建設され、パレスチナのテロリストのイスラエルへの侵攻を、阻止するということだ。イラクでは首都バグダッドに、スンニー派、シーア派を区別する壁が設けられている。それ以前には、グリーン・ゾーンなる、特権階級とアメリカ人を守るための、壁画建設されてもいる。
しかし、実際にはこれらの壁が、どれだけ安全に役立つか疑問だ。安全確保というよりも、失業対策のためのものではないか、と思えてならない。イスラエルではアメリカをはじめとする、在外のユダヤ人からの寄付や、アメリカ政府からの援助で、この壁が建設されている。イラクの場合は言うまでも無く、イラクの石油収入が、この壁の建設に使われているのであろう。
一部ではこの壁によって、テロが起こる頻度が低下したといわれているが、それはあくまでも短期的な効果しか、もたらさないのではないかと思われる。
実際にガザからは、相変わらずテロ攻撃が行われ、しかもその攻撃兵器は、次第に本格的なものに、改良されつつある。ヨルダン川西岸からのテロ攻撃が少ないのは、必死にマハムード・アッバース議長の率いるファタハが 取りしまっているからではないか。
このイスラエルが設置した安全のための壁は、爆弾を仕掛ければ、たちまちにして崩壊することは、誰が考えてもわかろう。つまり、パレスチナ側は当分壁を、放置しているに過ぎないのではないか。壁があるからテロ攻撃が少なくなったのではなくて、ほかの理由によって、攻撃が少なくなっているのであろう。
イラクの首都バグダッドの壁の場合も同様に、スンニー派もシーア派もアルカーイダさえも、テロを実行する場所を、変更しているに過ぎないのではないか。現に最近イラクでは、低下していたテロの発生件数が増えているようだ。しかも、その発生場所は、バグダッドの中心部ではなく、郊外や他の都市に移っているに過ぎない。
イラクに駐留するアメリカ軍が懸念しているのは、イラク国民の不満が、アルカーイダのリクルートに対して、イラクの若者たちが応え、今後、テロ攻撃が活発化することだ。その理由は失業問題もあるが、アメリカ軍が長期間イラクにとどまり、その状態を恒久化する(イラクを植民地化する)ことに対する反発からだ。
安全のための壁は、イスラエルでもイラクでも、一時的な効果しか生まないだろう。その後には、逆効果が生まれてくるのではないか。そして、最終的に安全の壁は、人間のおろかさの象徴として、世界遺産に登録されるのではないか。