アフガニスタンのカルザイ大統領が、反政府のタリバン組織のリーダである、ムッラー・オマルに対し、政府への参加を求めた。
ムッラーオ・マルは、1996年から2001年まで、アフガニスタンの大統領だった人物であった、が同年に起こったアメリカ軍による攻撃で政権は打倒されたが、その後姿を消し、タリバンのアメリカに対する抵抗闘争を、指揮し続けてきた人物だ。
述べるまでも無く、ムッラー・オマルの認識では、カルザイ大統領は明確なアメリカの傀儡であり、「アフガニスタンの敵」ということになるのだが、それにもかかわらず、カルザイ大統領が彼に対し、政府への参加を呼びかけたのには、大きな意味がある。
このカルザイ大統領による、ムッラー・オマルに対する、政府参加の呼びかけについて、カルザイ大統領はアフガニスタンの安定に必要だと語り、世界に対しては自分が説明し、ムッラー・オマルの身の安全は、自分が保証するとも語っている
しかし、話はまったく別だろう。アフガニスタンに対するアメリカの戦いのうえで、最も協力的だったパキスタンのムシャッラフ大統領は、結果的にアメリカに捨てられることになり、大統領の地位から引き摺り下ろされた。
カルザイ大統領はその顛末を、すべて見ており、彼自身も、近い将来同じ運命になる、と判断したのであろう。その場合、ムシャッラフ大統領とカルザイ大統領との違いは、ムシャッラフ大統領が軍の出身であることから、ある程度身の安全を確保することができたが、カルザイ大統領の場合は、完全なアメリカの傀儡として、アフガニスタンの大統領に就任していることから、アフガニスタン国民の間に、味方は一人もいないということだ。
したがって、カルザイ大統領は単に、大統領職から引き摺り下ろされるだけではなく、アフガニスタンの国民によって、虐殺される可能性が非常に高いということだ。
そのことを恐れての妥協提案であろうが、ムッラー・オマルはカルザイ大統領の提案を、素直に受け入れるとはとても思えない。受け入れるとすれば、カルザイ大統領が大統領の座、をムッラー・オマルに引き渡すことが最低限の条件となろう。
カルザイ大統領による、今回のムッラー・オマルに対する提案は、アメリカ政府に対するする信頼を、完全に失ったことの証明であろう。つまり、アメリカ政府はカルザイという傀儡を立てることによって、見せかけの民主国家樹立を唱えたが、完全に失敗したというとではないか。
すでに、イギリスはアフガニスタン作戦の失敗を認めている。そのことは、アフガニスタン駐在のイギリス大使の発言から明らかになっている。彼は「われわれはアフガニスタンで米国を支援する以外にない」しかし「われわれが関与を望んでいるのは勝つ戦略であって、負ける戦略ではないということを伝えるべきだ」と在アフガニスタン・フランス大使に語ったということだ。
当然のこととして、このアフガニスタンの大きな変化は、イスラム世界全体に、強烈な影響を与えるのではないか。つまり、徹底したアメリカに対する武力による抵抗は、結果的に、アメリカに敗北をもたらすということだ。
このアフガニスタンの抵抗闘争の勝利は、今後アラブのイラクやパレスチナ、シリア、そしてイランのアメリカに対する強気の抵抗闘争を、刺激するものと思われるし、アメリカ支持のアラブの政権は今後、非常に難しい立場に追い込まれていく、可能性が高くなるということでもあろう。
BBCの10月3日の夜のアラビア語放送では、アラブ各国の知識人による、今回のカルザイ大統領の、ムッラー・オマルに対する妥協提案についての番組が組まれたが、アラブの知識人の誰もが、口をそろえてアメリカの敗北を強調している。
今回のカルザイ大統領による、タリバンのリーダー・ムッラー・オマルに対する妥協が、アメリカの作戦に従ったものであれば、話は全く別であろうが、どうもそうは取り難いような気がする。