一難去ってまた一難のイラク情勢

2008年10月 2日

 イラク国内の治安状況が、だいぶ改善されたという情報を、アメリカは流し続けてきていたが、ここにきてどうもそうではない、新たな緊張の不安要素が、出てきたことを認め始めた。

 それは述べるまでもない、イラク国民の間の、金に繋がる利害の対立が原因だ。イラク北部は主に、クルド人が居住しており、1991年に起こった湾岸戦争後は、アメリカの保護の下に、ある種の独立地域のような状態にあった。

 クルド地区はこのため、他のイラクの地域とは異なり、戦後の復興発展がめざましかった。トルコの企業が大挙して進出し、道路から住宅、公共施設、それに大型店舗まで建設されたのだ。

 クルド地区はマスウード・バルザーニが議長を務め、彼自身はクルド共和国の大統領に、なったような気分でいたのであろう。しかし、イラク中央政府は彼に対し、クルド地区の分離独立を認めてはいない。

 問題は、クルド地区に埋蔵されている、石油資源の配分が、いまだに決着がついていないことにある。述べるまでもなく、クルド地区側はより多くの取り分を主張している。

 そうしたなかで、イラク中央政府が、国軍を大量にクルド地区に、送り込む方向で動き始めたのだ。そのことは、クルド自治政府側には受け入れられないことだとして、イラク中央政府とクルド自治政府との間に、緊張状態が生まれてきているということだ。

 なかでも、ハナキン地域への、イラク中央政府軍の進出は、認められないとし、クルド自治政府は戦闘も辞さない、という強気の対応を取り始めている。

当然のこととして、イラクのスンニー派国民や、シーア派国民と彼らを代表する政府関係者は、クルド自治政府に対して、イラク中央政府の権限が、十分に及ぶことを望んでいる。

クルド地区の自治権、クルド地区の石油資源などをめぐり、今後、軍事緊張が高まっていく可能性が、非常に高いということだ。そうなれば、大統領であるタラバーニ氏が、クルド人であること、首相のマリキー氏がシーア派であることから、イラク中央政府の分裂もありうるということになる。

アメリカ政府は、どこまでこのイラクの国内問題を、スムーズにリードしていけるのか。もし、それに失敗すれば、イラク戦争後いままでの苦労が、水泡に帰することになるのだ。