オルメルト首相はなぜ占領地の返還をいま呼びかけるのか

2008年10月 1日

 最近、何度となく、イスラエルの首相オルメルト氏が、占領地の返還を、イスラエル国民に訴えるようになった。

 それは何故なのであろうか、といぶかっている人は少なくあるまい。私もその一人なのだが、イスラエルが多分に、金融ビジネスである種の限界点に達し、同時に、世界のニュースをコントロールし難くなってきたことによるのではないか。

 イスラエルというよりも、ユダヤ人と言ったほうがいいだろうが、これまで彼らは世界の金融を支配し、巨額な資金を元に、世界の報道を牛耳っているといわれてきた。確かに、イスラエル問題やユダヤ問題に関する情報は、これらのユダヤ人によって、報道が操作されてきていた部分はあろう。

 しかし、世界が突入し始めた金融恐慌を前に、報道を牛耳る資金に問題が発生してきているのではないか。同時に、インターネッの普及が世界中の人々に、自分の通信社を持たせるようになった。つまり、誰もが自由に何も規制も無く、情報、主張、デマ、宣伝を世界中に送ることが、できるようになったのだ。

 このインターネット効果は、すでに何度と無くこの欄でも書いてきたが、1998年にアフリカのケニヤとタンザニアの、アメリカ大使館爆破事件が起こった後、私はインターネットと衛星放送と銀行のオンライン・システムが、世界中のイスラム・テロリストを結び付けるし、世界中のイスラム教徒を、バーチャルな国家の国民にすることの、危険性を訴えた。しかし、私の警告に対して、日本では何の反応も起こらなかった。 

 いま、イスラエルはその三つの新しい道具によって、危険の淵に立たされているということだ。アメリカはサブ・プライム・ショック以来、イスラエルの面倒を十分に見るだけの、余裕はなくなっているのかもしれない。

 それとは反対に、第三世界の国々が、独自の主張を強化し始めており、反米国家がアメリカの内庭の国々で、一斉に広がってもいる。

 イランのアハマドネジャド大統領は、「イスラエル国家が地上から消え去ろう。」と警告をしてもいる。こうした状況を冷静に判断すると、アハマド・ネジャド大統領が警告するように、イスラエル国家が滅亡するとはあるまいが、非常に苦しい立場に追い込まれていく、可能性は高いといえよう。

 イスラエル政府は、ブッシュ大統領がイスラエルを訪問した今年の5月に、イランに対する軍事攻撃を主張し、アメリカンの支援を求めたが、ブッシュ大統領はそれを拒否した、という情報が最近になって伝えられている。

 こうした種々の状況を考えて見ると、オルメルト首相はできるだけ、イスラエルが世界で孤立しない前に、しかも、軍事的優位を保っているうちに、アラブとの和平を確立したい、と思っているのであろう。その判断は間違っていないと思う。

 一部には、オルメルト首相は辞任したから、そのようなことが言えるのだ、という人たちもいるが、そうではない。彼は辞任するとは言ったが、次の首相が決定するまでは、イスラエルの首相であり続けるのだ。

 オルメルト首相の発言は、イスラエル国家設立の趣旨とは、完全に異なるものであり、歴代のイスラエル首相や、1967年に起こった第三次中東戦争の英雄、モシェ・ダヤン将軍らが主張していたイスラエルとは、全く異なるイスラエルを、イスラエル国民と世界のユダヤ人に対して、語りかけているのだ。

 イスラエルにとって、状況はそれだけ厳しいということだ。そのイスラエルの苦境を、どれだけ日本人の中東専門家諸氏は、実感しているのだろうか。日本政府と中東専門家諸氏は、反イスラエルの主張を展開するだけではなく、いまこそオルメルト首相の呼びかけを、支持すべきではないのか。