イスラム世界はいま、神聖なラマダン月の真っ最中だ。アラブのイスラム教徒たちは、昼過ぎ遅くに起き上がり、日没のエフタール(食事をすること)を待つのが常だ。
彼らの多くは、ラマダン月には朝まで起きていて、断食をする前の食事(スフール)をとり、朝の礼拝(サラートルファジュル)をして断食を始めるのだが、不謹慎なやからは、夜中サテライトTVを楽しんでいる。
このサテライトTVのプログラムの中には、短いスカートをはき、シースルーのブラウスを着て踊る女性の画像が少なくない。つまり、聖なる月ラマダンを、イスラム教徒のなかの不謹慎なやからは、本来の目的とは全く異なる、みだらなサテライトTVの番組を見て、楽しんで過ごしているに過ぎないということだ。
この現状を嘆いた、サウジアラビアのイスラム法学者の権威、シェイク・サーレハ・ビン・アルルハイヤーンは、みだらな放送を行っているサテライトTVのオーナーを、「殺すことが許される」という判断を公にした。
このことは、確かにイスラム的に考えれば、「放映は悪魔のなせる業」ということになる。そこで困ったのがサウジアラビア王家だ。サウジアラビア王家はイスラムの守護者としての立場を、権威付けていく上で、イスラム学者たちの支持を、取り付けなければならない。
しかし、このイスラム法学の権威者の発言を認めてしまうと、イスラム原理主義者たちの、「斬首を含む残虐テロ」を、認めることにもつながってしまう。しかも、その幾つかのサテライトTVのオーナーたちは、ワリード・ビン・タラール王子をはじめとする、サウジアラビアのプリンスたちなのだ。
サウジアラビア王家は、サテライトTVという現代の魔物によって、いま、板ばさみになってしまっているということだ。ビン・ラーデンと彼のグループ・アルカーイダが、衛星放送、インターネット、銀行のオンライン・システムを駆使して、世界規模のイスラム原理主義、テロ組織に拡大していった。
いま、これとある意味で同様に、サテライトTVによって生み出された、サウジアラビア王家の苦境は、まさに新たな現象といえるのではないか。科学が作り出す種々の道具は、核兵器同様に、危険がどちらに向かわせるか、予測できないということだ。
聖なるラマダン月は、サウジアラビア王家にとって、新たな災難をもたらす月のようだ。その根底にある原因は、やはりサウジアラビア王家の抱えている、内なる矛盾ではないのか、と思えてならない。