大変革が起こっている中東地域

2008年9月 7日

 

 先日、シリアの首都ダマスカスで、国際会議が開催された。この会議は四者会議と呼ばれ、シリアが主催しトルコとカタール、それにフランスが参加した。

 このことからも気がつくことは、最近アラブ諸国の会議に、必ずといっていいほど、トルコが参加するようになっているということだ。その前にジェッダで開催された、湾岸諸国外相会議にも、トルコのババジャン外相が参加している。この場合は、主題がトルコと湾岸諸国との協力促進、であったことから、トルコが参加するのは当然なのだが、湾岸諸国だけでは現在の状況に、対応しきれないということであろう。

 アメリカとイランとの戦争が、起こる可能性が高まっていること。もし、戦争が起こらなかった場合は、イランが湾岸地域で大きな存在となることから、湾岸諸国がイランの圧力を受けるであろうこと。そのいずれの場合でも、トルコが湾岸諸国に協力するか否かが、決定的な意味を持つことになろう。こうした背景があるからこそ、会議では湾岸諸国とトルコとの間で、戦略的、政治的、経済的協力関係が話し合われ、覚書が交わされたのだ。

 シリアの場合も同様だ。シリアとイスラエルの緊張を緩和していくには、トルコの仲介と保証が重要な意味を持っている。述べるまでもなく、トルコはイスラエルと中東地域で、唯一良好な関係を持つ国だからだ。そもそも、シリアとイスラエルが和平交渉を始められたのは、トルコの仲介によってであった。

 シリアのダマスカスで開催された四者会議では、当然のことながら討議課題は、シリアがイスラエルと、どう和平を構築していくか、ということであり、もうひとつの課題は、イランへの対応だった。フランスは言ってみれば、トルコの架けた橋を、あたかも自分が架けたかのように振舞って、漁夫の利を得ようという立ち回り方だ。きわめて狡猾な、フランスのやりそうなことだ。

 そうはいっても、フランスの会議参加は、シリアとヨーロッパ諸国、あるいはアメリカとの関係を考慮した場合、それなりに意味があろう。結果的に、シリアはこの四者会議の開催によって、ヨーロッパ諸国と通常の関係に、戻ることになりそうだし、アメリカとの間にも、自然な関係を構築する、糸口をつかんだようだ。

 イスラエルはこのため、四者会議が開催されたことによって、シリアは国際社会に復帰することになった、と判断している。そのことは、イスラエルもシリアとの関係を、前向きに捉える必要が、出てきたということであろう。

  フランスはこの会議で、カタールの参加があったからであろうか。イランに対する攻撃は、破滅的な状況を、国際社会に生み出すと警告し、カタールの意向を代弁している。そのことは、イスラエルの中の和平派を、勇気付けることにもなろう。

 イスラエルの中には、イランに対し攻撃を加えるべきだ、という強硬派がいるが、ペレス大統領やリブニ外相は、必ずしも戦争を望んではいないようだ。彼らは、アメリカの中の和平派と呼応しながら、何とか平和的にイランの核問題を、解決したいと考えているものと思われる。

 中東地域はいま、メジャー・プレイヤーがエジプト・イスラエルから、トルコ・イスラエルに変わってきているし、ヨーロッパ諸国もアメリカの言いなりには、動かなくなってきている。アメリカの影が薄れてきたというべきか、トルコの存在感が大きくなってきた、というべきか状況は変化している。

 これにロシアが絡み、中東地域にこれまでには無かった形の、駆け引きが始まっているのだ。イランに対しロシアが、積極的に友好的態度を示していることは、誰もが気づいていようし、アメリカが守勢に立たせられつつあることも、誰もが感じていよう。

 つまり、中東地域の政治・軍事で、冷戦時はアメリカとソビエトが主役であったものが、ロシアの崩壊後、アメリカの独り舞台となり、最近では、アメリカに加えロシア・トルコが、大きな役割を果たすようになってきている。どちらかといえば、イギリスを除くヨーロッパ諸国は、脇役に回った感じがする。 大英帝国の中東戦略は、いまのところ必ずしもうまく機能してはいない。その変化に日本は、あまり気がついておらず、相変わらずアメリカとイギリスが、すべてを動かしているような、錯覚を持っているのではないか。