7年ほど前に、AKP(開発公正党)がトルコの政権を握って以来、同党の持ち前のクリーンさと、賢明な政策が効奏して、トルコの経済は急速に改善し、その後も伸び続けている。
このため、国民のAKPに対する支持は、日に日に増大している、ということだ。この経済の好転に加え、AKPは軍の台頭を抑え込むことに成功し、憲法裁判所との戦いでもAKPが勝利し、国民の溜飲を下げている。
そして、最終的にはトルコの陰の権力集団、エルゲネコンの一掃にも取り掛かり、大きな成果を上げてもいる。問題は、結果的にAKP支持が、あまりにも多くなり過ぎたということだ。
以前の選挙では、47パーセントだったAKP支持が、もし、今選挙を実施したら、どの党に投票するかというアンケートに対し、50・9パーセントの国民が、AKPに投票すると答えている。
それ以外のCHP(左派政党)MHP(右派政党)については、13・9パーセントの支持を得ていたCHPには、9・5パーセントが投票すると答え、MHPに対しては、8・4パーセントの支持率が6・6パーセントに激減している。
問題は、これだけの圧倒的な支持を集めるに至った与党AKPに対し、反対する政党が無くなるということだ。マスコミもまた、こうしたトルコ国民の意識変化の中で、AKP一辺倒の論調を、展開するようになる恐れがある。
ギュル大統領の温和な表情と、エルドアン首相の毅然とした表情が、信頼できる政党の雰囲気を、醸し出しているのであろう。しかし、現在トルコでは、大統領、首相、国会議長のいずれもが、AKP出身議員で占められている。
近く入れ替えられる、憲法裁判所の判事も、大統領の指名であることを考えると、司法、行政、立法の三法が、すべてAKPの手中に落ちることになる。何やらファッショな感じがしないか。
先日、在日のトルコ青年グループに対して、この危険性を指摘し、「外国にいる皆さんが、客観的な意見を、トルコのマスコミに対して発信すべきだ。」と提案した。そうした私の懸念と同じ懸念を抱いた人物が、トルコ人の中からも出てきた。
私と同じ意見を述べ始めているのは、オゼル・センジャル教授で、彼は今回の世論調査を実施した、組織のメンバーでもある。CHPやMHPが支持を減らしていくことは、AKPに対する対抗組織がなくなっていくことであり、AKPの民主化路線が正しい方向に向かわなくなったときの、歯止めがなくなるということだ。
AKPが健全な与党であり続けるためにも、野党の健闘が必要であろう。唯一の救いは、このオゼル・サンジャル教授の意見を掲載した新聞が、AKPの支持新聞であるということだ。つまり、冷静な判断が、今もトルコ国内では、働いているということだ。