緊張状態が散々繰り返された結果、やっとスイスのジュネーブで、アメリカ国務省のナンバー3(国務次官)であるのウイリアム・バーンズ氏と、イランの核交渉担当のサイード・ジャラーリ氏が、会談することになった。
これはいままで、長く待たれていた、アメリカとイランの公式な会談として、評価するに値しよう。まさに、世界が待ち望んでいた動きだといえよう。この会談の結果、何らかの突破口が生まれれば、アメリカによるイランに対する、軍事攻撃は遠ざかり、世界経済は破滅から救われることになろう。
アメリカ国内では、イランに対する対応をめぐって、強硬派のチェイニー副大統領と、穏健派のゲイツ国防長官・ライス国務長官が意見を異にしてきた。
今回、ウイリアム・バーンズ氏がイラン側の代表である、サイード・ジャラーリ氏と会談するということは、アメリカ政府内部で穏健派が勝利したように思える。(あるいは強硬派がラスト・チャンスを与えた)
しかし、これは場合によっては、アメリカとイランとの緊張関係を解消するのではなく、決定的な状態に持ち込む、危険性も十分にあるものだ。それは、アメリカがいままで検討してきたオプションである、交渉による問題の解決が、失敗する可能性もあるからだ。
イランは今回のアメリカ側との交渉で、ウラニュームの濃縮活動を中止することを、アメリカに約束するだろうか。それはありえないのではないかと思えてならない。
アメリカ側は最終的に、国際的な反対もあり、軍事行動には出られないだろう、とイランが判断し、時間稼ぎに出た場合、アメリカもさることながら、イスラエルは自国の将来に対する安全上の焦りから、単独ででも、軍事攻撃に出ないとは限らないからだ。
しかも、アメリカはもしイランが時間稼ぎをしたりせず、明確なウラニュームの濃縮中止を約束しなければ、最終のオプションに移行しなければならなくなるだろう。ウイリアム・バーンズ氏はチェイニー副大統領に対して、明確な問題の進展があったことを報告しなければならないことから、イランとの間で妥協点を見出すことは簡単ではあるまい。
しかも、それがアメリカ国内だけではなく、イスラエルにとっても、満足できるものでなければならないということだ。イスラエルの国内では、穏健派といわれるオルメルト首相が、自身のスキャンダルで、火達磨になっている状態であり、バラク国防相やもっと強硬派であるネタニヤフ元首相に、イラン対応で突き上げられている。
いま世界は命運を、ウイリアム・バーンズ氏の外交手腕に、全てを委ねていると言っても過言ではあるまい。しかし、彼にそれだけの外交交渉の、力量があるのだろうか。あるいは、イラン側に冷静な計算が働いているのだろうか。イスラエルはたとえ、イランが何らかの妥協を示したとしても、それでよしとすることが、国内的に可能なのであろうか。今回のアメリカとイランとの、ジュネーブでの直接交渉は、決して不安を取り去ってくれるもの、とは言えないのではないか。
思い出されるのは、1991年1月にジュネーブで行われた、イラクとアメリカの最終交渉のことだ。あの時、アメリカ側はイラクが絶対受け入れることの出来無い、条件を突きつけることによって、イラク攻撃の正当化を図ったのだ。そして、その結果は湾岸戦争となった。