イラクのマリキー首相は、いまどちらに転んでも、生命の危険にさらされる、危険な状態に置かれている。それは、アメリカが強く求める地位協定(実質的なアメリカ軍による占領と長期駐留)に、どう答えるかという問題だ。
アメリカ側はイラクに対し、アメリカ人がイラクの一切の法的権限に縛られない、駐留を望んでいる。もちろん、その駐留期限もアメリカ側の希望しだいであり、5年や10年といった明確な期限のあるものではない。
実質的に、アメリカはイラクを占領し、軍事的に支配したいと考えているのだ。そのアメリカ側の意図は、イラク国民には分かっており、イラク国民はこの協定を「占領」「支配」だとして拒否している。
しかも、アメリカはこの合意を交わすことにより、イランばかりではなく、湾岸諸国や中央アジア諸国、中東諸国に対する軍事的威圧の、拠点としようとしているということだ。
イラクのシーア派宗教界の最高指導者シスターニ師も、地位協定の締結に反対している。もちろん、アメリカの軍事攻撃を何時受けるかわから無い、イランもこの地位協定には大反対だ。イラクの民族派、スンニー派国民も反対している。
もし、この地位協定にマリキー首相がサインすれば、彼はイラク国家を売った男として、歴史に名をとどめることになろう。その結果、彼は暗殺されることになろう。しかし、地位協定を拒否し続ければ、アメリカによって彼は失脚させられ、何のガードも受けられなくなり、身の安全は保証されまい。
最近になって、マリキー首相はアメリカ側に対し、撤退のタイム・テーブルを示さなければ、地位協定の交渉を拒否すると言っているが、アメリカがすんなり撤退の時期を答えるはずが無い。
アメリカは日本同様に、イラクを永久に占領し、イラクの石油収入を吸い上げようと考えているのだから。
イラク国民の100万人以上の犠牲者を出した、今回のアメリカ軍によるサダム政権打倒という取引は、アメリカにのみ有利なものとなるのではないか。イラクはサダムフセイン大統領を消すことは出来たが、同時にすべてを失いもしたということであろう。
このロスを取り戻すには、あと100万人のイラク人の戦闘員の命が、失われなければなるまい。それでも、イラクは独立を取り戻せないかもしれない。