イスラエルの元外務省高官のアロン・リエド氏は、もしアメリカがシリアに対し、資金援助と軍事援助をするのであれば、シリアはイランとの関係を断絶してもいい、という意向を持っていると語っている。
これが本当であれば、まさに中東問題解決、中東の安定化への大きな一歩ということになるのだが、その実態はどうであろうか。
もし、シリアがイランとの関係を断絶することになれば、イランはシリアだけではなく、レバノンのヘズブラに対する影響力も低下しよう。なぜならば、イランのヘズブラに対する兵器の供与は、シリア経由で行われているからだ。
同じように、パレスチナのハマースに対する影響力も、低下することになろう。ハマースのトップは現在、シリアの首都ダマスカスに、事務所を構えているのだ。
もし、イランとシリアとの関係が冷却化した場合、シリアのハマースに対する対応にも、変化が生まれることから、ハマースにとってはすこぶる居心地の悪い国になるということであろう。
シリアが実際に、イランとの関係を断絶しないまでも、冷却化していくとすれば、イランのレバノン、パレスチナに対する影響力は低下し、その他のアラブ諸国への影響力も、低下していくことになろう。
したがって、アラブ諸国が恐れるような、アラブ諸国でのシーア派の台頭と、イランの影響力拡大は、停止するということであろう。アラブ諸国の大衆のなかで、イラン支持色が強くなっているのは、イランがアメリカと強硬に対峙していることと、パレスチナやレバノンのヘズブラを支援しているからであろう。
イスラエルの元外務省高官が、シリアとイランとの関係が悪化することに言及したのは、他方で、イスラエルとシリアが交渉を始めていることに、起因しているのではないか。その流れのなかで、イランを孤立させるために、発言したものではないかと思われる。
少なくとも、現段階でシリアがイランとの関係冷却化を、言い出すメリットは何処にもないからだ。シリアはレバノンについても、ヘズブラを使った影響力の行使を、当分の間は維持したいと考えていよう。