エジプトの物価高騰は、常識を超える段階をはるかに上回っている。庶民の生活はこのため、日毎に苦しさを増している。
しかし、エジプトでは暴動も、クーデターも革命も起こる気配がない。それは何故なのだろうかと、誰もが不思議に思うだろう。実はこうした劇的な社会変革を生み出す、核となるべき人物や団体が存在しないというのが、エジプトのもうひとつの実情だ。
本来であれば、軍が国民の苦しみを受け止め、クーデターを起こし、体制を打倒することにより、現状の問題解決を図ろうとするだろうが、軍部なかでも軍幹部は、ムバーラク体制と一体であり、ムバーラク体制を打倒するそぶりさえも見せていない。
それでは大衆による暴動が、起こらないのはなぜかと思うだろう。大衆は完全に希望を失い、暴動を起こす気力さえ無いというのだ。アレキサンドリアに近い町で、小規模な暴動が起こったが、警察によってまもなく、鎮圧されてしまった。
それでは大衆による革命はどうかというと、この場合に必要な核となるべき組織も、英雄的人気を集める人物も、今のエジプトには存在しないというのだ。こうした動きでは、ムスリム同胞団が主導すると思われるのだが、ムスリム同胞団の大衆支持は、低下の一途をたどっている。
彼らムスリム同胞団が、大衆を扇動したとしても、大衆は付いていかないというのだ。それ以前に、ムスリム同胞団の幹部の多くが、警察によって逮捕され、投獄されてしまっているのだ。
しかし、大衆、一般庶民の生活は日増しに、厳しさを増していることから、近いし将来暴発する危険性は、高いと考えておく方が正しいのではないか。その場合、権力側は弾圧すべき組織も、人物もいないとなれば、対応が困難であろう。そして、そうした状況下で起こる暴動は、凄惨を極めるのではないか。
その暴動が起こらないように、エジプト政府はありえない戦争の可能性を、常に国民に対して宣伝しているのだ。