エジプト庶民の生活苦

2008年6月25日

                   「エジプト庶民の生活苦」

 エジプトのカイロに着いた日の朝、友人の事務所を訪ね、彼が姿を現すまで、彼の執務室で新聞を読んでいた。一面はムバーラク大統領を賞賛する記事が、ほとんどだった。続く二面を見てみると、目を引く記事が二つ並んでいた。

 一つは肉屋の主人と近所に住む男との争いが、結果的に殺人事件になってしまったというものだった。肉屋の近所に住む男が、肉屋の主人に少しだけ肉を分けてくれないかと頼むと、肉屋の主人はそれを断った。すると近所の男は、肉切り包丁で肉を少しばかり切って、持ち帰ろうとした。それがきっかけで肉屋の主人と近所の男は、包丁を手にしてけんかになり、肉屋の主人は死亡、近所の男も重傷を負った、という内容だった。

 もう一つの記事は、エジプトの一般家庭では、一日40枚平均でパンが消費されている、という内容だった。もちろん、どこの家でもパンを40枚、食べているわけではないのだが。

 このパンは直径25センチほどの平たいパンだ。胚芽を含むパンで栄養が普通のパンよりもあるといわれている。エジプトの庶民はこのパンに、豆を煮てつぶしたペースト状のもの(フール)をつけて食べ、それ以外には野菜を食べている。肉が食卓に出ることは10日に一度か、1ヶ月に1,2度程度であろう。

 その主食中の主食とも言えるパンの値段が、何倍にも跳ね上がったのだから、庶民にとっては大問題となった。4月ごろから職場ではストが起こり、街中ではデモが起こっている。しかし、今までのところ、大規模な暴動にまでは発展していない、というよりは未然に防がれているようだ。

 それでも数日前には、アレキサンドリアに近いブロルスという街で、暴動が起こった。庶民はパンをはじめとする諸物価の値上げに抗議し、タイヤを燃やして道路を封鎖したということだ。

 さる51日のメーデーには、大規模なストが発生することが予測されていたが、何事も起こらなかった。その後にも、同様の予測記事が出たが、何も起こらなかった。こうしたエジプト庶民の現状に対する対応について、友人が興味深い説明をしてくれた。

 「エジプト人は急激な変化を望まないんだ。ムバーラク大統領が給料の30パーセント引き上げを発表したのに対し、庶民は給料の引き上げではなく、諸物価を前のままに据え置きしてほしいと言うんだよ。これにはもちろんそれなりの理由があるんだがね。政府が30パーセントの給料引き上げをしても、諸物価が80パーセント上がれば、結果的に庶民は50パーセントの値上がりに苦しむことになるからね。」

 値上げはパンをはじめとした食料品全般から、バスをはじめとする交通費、ガソリンなどありとあらゆるものに及んでいる。この値上げの嵐にエジプトの大衆は、どこまで耐えられるのだろうか。