諸物価の高騰が、エジプトの庶民の生活を苦しめていることは、既に何度か報告したが、庶民が苦しんでいるのはこれだけではない。新たな課税が政府によって決められ、中産階級も苦しい立場に追い込まれているのだ。
そのなかでも、もっとも深刻な問題は私立の教育機関に対する課税だ。今までは私立の小中高校、大学は課税の対象にはなっていなかったが、ここに来てエジプト政府は課税を決定した。
結果的に教育機関は、授業料の引き上げをせざるを得なくなった。エジプトでは公立学校の教育レベルが低下しており、少しでも経済的に余裕のある家庭では、私立の学校に子供たちを送り出しているのだ。
しかし、政府による私立の教育機関に対する課税が決まったことで、教育費の負担が重くなったために、各家庭の負担が大きくなったのだ。エジプト人も面子を重んじ、教育を重視することから、教育費の負担が大きくなったからといって、簡単には私立学校から公立学校に、子供たちを編入させることは難しい。
もう一つの各家庭に及ぶ増税の影響は、不動産税が導入されたことだ。これまでは遺産相続税はあったものの、毎年支払う不動産税はなかったようだ。この不動産税が導入されたことにより、エジプトで400平方メートル以上の不動産を所有している各家庭は、毎年税の負担をこうむることになったのだ。
このことは、これまでカイロなどに見られた歴史的な建築物が、日本と同様に税金支払いのために取り壊され、土地が細切れにされて売られることになるということだ。カイロの町を歩いていると、古びたビルではあるが、よく見ると非常にこった外装の建物が少なくない。それがここ数年で、ほとんど姿を消すことになろう。
教育費の負担が増えることについて、エジプト政府は少子化を呼びかけている。子供の数を減らせば教育費の負担は、各家庭も政府も少なくて済むという考えのようだ。
カイロのメイン・ストリートの路肩には、幾つもの看板が出ているが、それらは「少子化によって生活を向上させよう」「少子化によって医療を受けられるようにしよう」「少子化によって失業を減らそう」「少子化によって満足できる生活を得よう」「少子化によって教育の機会を充実しよう」「少子化によって飲料水を確保しよう「といったことが書かれている。近い将来人口が現在の倍になると予測されているエジプトでは、あるいは政府の掲げる方針が正解なのかもしれない。