アメリカ・イラク治安協定について

2008年6月 6日

 以前にも、アメリカとイラクとの間で検討されている、治安協定について書いたが、その後も、この問題はアメリカ、イラク双方にとって、大きな重石となっているようだ。

 今年末には、国連が決めた国際合同軍の、イラクへの派遣期間が終了することになっている。そのことは、アメリカ軍だけではなく、イラクに駐留する他の国々の軍隊も、イラクから撤退することを意味している。

 アメリカは何らかの形で残ろうとするだろうが、他の国々の軍隊はこれを機会に、イラクへの軍事的関与を終わらせたい、と考えているのではないか。そうなると、アメリカ軍が弱体化し、危険度が高まろうし、イラクのミリシアはアメリカ軍に対する攻撃を、強化する可能性が高いだろう。 

 イラク政府もそうした国内と国民の雰囲気のなかでは、持ちこたえられない可能性が、高まるということであろう。サドル派などはマリキー政権に対し、より一層の要求を突きつけ、マリキー政権はアメリカとの間で、非常に苦しい立場に追い込まれるものと思われる。

 以前にも書いたが、このアメリカ・イラク治安協定については、イラクの最高宗教指導者である、アヤトラ・シスターニ師が「私の命のある限り反対する。」と明言しているし、それ以外のアヤトラであるシーラーズィ師、アルハリーリ師なども反対している。

 シスターに師は最近、アメリカ・イラク治安協定への4条件なるものを発表しているが、それは「イラクの安全」「イラクの利」「イラクの主権」「イラク国民の合意」などというものであり、あくまでも条件らしいものを示し、頑迷ではないことを、示そうとしたに過ぎないのではないか。

 イラク駐在のアメリカ大使は「イラクをアメリカの恒久的な基地にするつもりは無い」と語っているが、アメリカ政府としてはイラク全土で、50箇所の基地を確保し、維持したいと考えているし、イラク領土からの自由な軍事作戦活動の保証を求めてもいる。

 アメリカが考えているのは、10年間の治安協定ということだが、実際にはその後も、10年20年という期間延長があるものと思われ、イラクはアメリカ軍の恒久基地化することになるのではないか。 

 この場合、アメリカ政府の方がこの治安協定を必要としているのか、イラク政府なのかという問題が出てくるが、現在の段階では双方にとって、必要なのではないか。ただし、イラクのマリキー政権としては、どう転んでも危険と背中合わせの、厳しいテーマということになろう。

 合意しなければ、アメリカとの信頼関係が著しく損なわれ、かつイラク国内では外国軍の駐留が、大幅に削減される結果、不安定な状態になり、マリキー首相暗殺の危険性もたかまろう。

 もし、マリキー首相が合意すれば、イラク国民の側から、マリキー首相とイラク政府に対する反発が強まり、マリキー首相はやはり、生命の危険にさらされることになろう。まさにマリキー首相はいま、板ばさみ状態にあるということだ。

 アメリカは大東亜戦争後、日本がアメリカに従順であったことからイラクでも同様の反応があることを期待していたようだが、その期待は完全に裏切られたということだ。同時に、治安協定を結んだとしても、やはり日本の例のようには推移すまい。アメリカ軍は危険と常に過ごさなければなるまい。