ブッシュ離れをする中東首脳たち

2008年5月29日

 多分、彼の大統領任期中最後であろう、中東諸国歴訪をしたブッシュ大統領は、何処でも歓迎されなかった。ヨルダンなどは、具体的なパレスチナ問題の解決策を持ってこないのであれば、訪問して欲しくないとまで言っている。

 ブッシュ大統領の今回の歴訪の目的は、表向き以下のようなものだった。

1:パレスチナ問題の解決努力。

2:石油増産の依頼による価格引下げ。

3:イラン対応。

4:中東の民主化推進。

 しかし、そのいずれもが空振りに終わった。しかも、中東各国首脳からは、総スカンを食らった感じだった。エジプトのシャルム・エルシェイクで開催された会議(WEF)では、主催国のムバーラク大統領が、ブッシュ大統領の発言にへそを曲げ、ブッシュ大統領の演説の時間に、会場から出てしまう、という外交儀礼上希なことが起こった。

 これに対し、ブッシュ大統領もムバーラク大統領の演説時に、会場から出てしまうという、子供じみた敵意の応酬を行っている。

 ブッシュ大統領はいま中東で、次のようなことを狙っているようだ。

1:シリアの孤立化。

2:イランの孤立化。

3:ハマースの孤立化。

4:ヘズブラの孤立化。

 しかし、中東各国はおし並べて、ブッシュ大統領のこうした目標に、反する行動をとっている。

 まず、サウジアラビアはブッシュ大統領の、石油増産依頼に同意しなかった。しかし、後で30万バーレル程度の増産を口にしているが、実際に行われるか否かは不明だ。しかも、サウジアラビアは、イランとの直接交渉進め、独自に関係改善を図っている。

 同様のイラン接近は、カタールやバハレーン、アラブ首長国連邦、クウエイトも行っている。つまり、湾岸各国はアメリカの政策を支持し、イランを孤立化させるのではなく、イランへの独自のアプローチをすることによって、イランとの関係改善を、図っているということだ。

 シリアの孤立化についても、アメリカの盟友であるトルコが仲介し、イスラエルとシリアの和平交渉が進められている。この点については、アメリカのもうひとつの盟友であるイスラエルですら、前向きに取り組んでいるのだ。これでは、シリアの孤立化はとても困難であろう。

 レバノンのヘズブラの孤立化についても、カタールが会議を開き、最終的にはヘズブラにとって、もっとも有利な形の、問題解決に成功している。そのことは同時に、シリアを助けたということでもある。アラブ各国はこのカタールによる、レバノン問題解決の努力を高く評価し、会議の成功を喜んでもいる。

 パレスチナのハマースについても、アラブ各国、なかでもエジプトが、イスラエルとハマースとの関係改善に努力している。ヨーロッパ各国も、ハマースを孤立化させるのではなく、話し合いを行うべきだと主張し、実際にその行動に出つつある国が少なくない。

 ブッシュ大統領の方針にこうまでも、中東各国が反対する行動をとっているのは、ブッシュ大統領の任期が後わずかだ、ということによろうが、それに加え、中東各国はアメリカの中東政策に、とても付いていけない、という不安があるからであろう。

 なかでも、ブッシュ大統領が主張する、中東の民主化、そしてイランの孤立化は、中東各国の支配者たちにとっては、危険極まりないものでしかないのだ。ブッシュ大統領時代にアメリかが積み上げた、中東における負の遺産を、次の大統領が払拭するには、相当の時間を要するのではないか。たとえ、万が一、大統領に民主党のオバマ氏が就任することが出来たとしても。