密輸船と特攻艇の誤認が戦争の引き金に

2008年5月14日

 ヨルダンの新聞を読んでいて、はっとさせられるニュースがあった。新聞の記事そのものは、ある種のルポルタージュのようなものであり、何ら危険を伴う内容ではないのだが、それを拡大解釈すると、すこぶる危険なことに繋がっていくのだ。

 ヨルダンの新聞の内容とは、アラビア湾岸の国オマーンの飛び地、ムサンダムとイランとの間で、密輸品を運ぶスピード・ボートが、行き来しているという話なのだ。そして、それは危険を伴うが、イラン人やパキスタンのバルーチ人にとっては、金になる数少ない、仕事の種だというのだ。

 記事によれば、密輸船の一回の往復には3時間かかり、腕のいい者は一日34往復しているとか、イランの官憲がリベートを、幾ら取っているかという内容が、事細かに書かれてあった。

 しかし、この密輸品を運ぶスピード・ボートは、アメリカの巨大な艦船の上から見たのでは、イラン海軍の特攻ボートと、区別がつきにくいのではないか。しかも、夕暮れや朝方の早い時間帯には、識別がますます難しいだろう。

 アメリカ海軍の艦艇はこの密輸船が近くを通り、艦艇側からの警告を無視された場合、密輸船を特攻ボートと誤認して、攻撃を加える可能性があろう。密輸船にはアメリカ海軍の電波を受信する、無線機は付いていないのが普通だから、なおさら危険の度合いは高いのだ。

 この密輸船と特攻ボートとの誤認が、アメリカ側の発砲につながり、イラン海軍を刺激して、戦闘に発展する危険性が、あるのではないかと思えてならない。しかも、アメリカ側に戦争を仕掛ける意思があれば、十分に正当防衛と、それを踏まえた上での先制攻撃として、イラン攻撃が始まる危険性もあろう。

 アメリカ政府のなかには、いまだにイランに対して、戦争を仕掛けたいと思っている要人が少なくない。彼らにとっては、密輸船と特攻ボートとの誤認が、格好の開戦理由に、なりかねないということだ。

 密輸船には皮肉なことに、アメリカのタバコである「ラッキー・ストライク」が積まれている(?)のではないか。密輸船の主な荷物は、コンピューター部品と、アメリカ製のタバコなどだといわれている。それらは、アラブ首長国連邦で仕入れられているということだ。

 最近ではこの密輸が、少し減り始めているということだ。アラブ首長国連邦の物価が、上がっていることがその原因らしい。だとすれば、インフレには突発戦争の防止効果があるのかもしれない。皮肉な話だが。