トルコがイスラエルとシリアとの緊張関係を仲介し、何とかこれまで戦争が起こる事態を防いできている。それはトルコの外交努力に対し、敬意を払うに値することであろう。
そのトルコに対するイスラエルとシリアの評価は、当然のことながら高いものと思われる。イスラエルもシリアも強気の発言を繰り返し、明日にでも戦争が始まりそうな場面が、これまで何度となく繰り返されてきているのだ。
しかし、ここに来てイスラエルが、1967年戦争(第三次中東戦争)で占領したシリアのゴラン高原地区を、返還する意思があると言い出した。単純に考えれば、トルコの外交努力が実を結び、遂にイスラエルとシリアとの間に、和平が成立すると期待したいのだがそうでもなさそうだ。
確かに、イスラエル政府もトルコ政府もシリア政府も、イスラエルがゴラン高原をシリアに返還する意思のあることを確認している。イスラエルがトルコに対して、その意向を正式に伝え、トルコがイスラエルの意向をシリアに伝えているのだ。
しかし、ゴラン高原返還にはまだまだ高いハードルがありそうだ。今回イスラエルはゴラン高原返還の条件として、シリアがパレスチナのハマースやレバノンのヘズブラといった、テロリスト・グループに対する支援を止めることを上げている。
加えて、ダマスカスに居住しているハマースのリーダーであるハーリド・ミシャアルを国外追放すること、イランと距離を置くこと、そして、イスラエルとの間に和平条約を結ぶこと、などを要求している。
もし、シリアがこのイスラエルの条件を飲んだ場合、アサド大統領体制は一瞬にして打倒されるのではないか。シリアのアサド大統領体制が存在していられるのは、あくまでもアラブの大義を守り続ける、唯一のアラブの国家という錦の御旗が建っているからであろう。
イスラエル側も、ゴラン高原には13万人の入植者が、1967年の第三次中東戦争勝利以来、つまり占領が始まったとき以来居住しているのだ。それを何処に移住させるのか、決して簡単なことではあるまい。ゴラン高原では既にイスラエル産のワインが生産され、世界的にも知られる銘柄として、輸出されているのだ。
単純に考えて、もしイスラエルがシリアに対し、ゴラン高原を返還するのであれば、ゴラン高原の代替地となりうるのは、ヨルダンア川西岸地区であろう。つまり、イスラエルがシリアとの和平を成立させるためには、パレスチナ人を西岸地区から追放しなければならないということだ。
ゴラン高原の入植者をゴラン高原にそのまま居住させて、返還するという妥協案も検討されては来たが、なかなかそうは行くまい。それは、ゴラン高原から追放されたシリア人が多数いるからだ。
イスラエルがシリアに対し、1967年以来、占領し続けてきたゴラン高原を返還する意思があるというニュースは、中東の平和を、新しい中東の時代を期待させるのだが、それは容易ではないということだ。
実現に向けての交渉が始まったとしても、これから何年もの歳月を必要としよう。それですらも、ゴラン高原の返還は実現しないかもしれない。