アラブ首長国連邦は、7つの首長国が一体となって、構成された連邦国家だ。7つの国といっても、それぞれは面積が小さく人口も少ない。
そもそもこれらの首長国は、元はといえばペルシャ湾の真珠採りや、インド洋を挟んだ交易を、主な仕事として生活してきた地域だ。なかには海賊をやっていた、と主張する専門家もいるが、もちろん全員が海賊で、生計を立てていたわけではない。
その元はといえば貧しかった、これらの首長国のなかの最大の面積を持つ、アブダビ首長国で石油が発見され、アブダビのシェイク・ザーイド・ビン・スルタン・アール・ナヒヤーン首長が、他の首長国を一体化させ、アラブ首長国連邦を構成した。今になって思えばこの決断は、大英断だったといえよう。
人口の少ないこれらの首長国が、ばらばらのままで今日に至っていたら、どのようなどんでん返しが起こっていたかわからない。外国からの介入に対して、全く抵抗力を持ち得なかっただろう。
現実に、いまその問題がアラブ首長国連邦のなかで、現実化してきている。外国からの労働者の受け入れで、人口構成は完全に逆転し、自国民の人口が2006年末の段階で、560万人のうちの15・4パーセントを占めたに過ぎなかった。つまり五分の一にも達していないのだ。
最近になって、人口構成問題が顕在化してきたのは、外人労働者が低賃金で働かされていること、労働災害の補償がないことなどから、道路封鎖をしたり、路上強盗をしたり、暴動を起こすケースが増えてきているのだ。
以前にも報告したが、ドバイで起こった幾つかのケースは、単なる事故ではなく、こうした外人労働者たちによる、犯罪であった可能性が高いと、アラブ首長国連邦政府の人たちも、最近になって受け止め始めているのであろう。
問題は、これらの外人出稼ぎ労働者たちの、待遇改善要求だけではない。アメリカやヨーロッパの人権団体が、次第にアラブ首長国連邦の外人出稼ぎ労働者に対する待遇をめぐり、アラブ首長国連邦に対し非難をはじめているのだ。
加えて、外人労働者が増加した結果、国内では英語の通じる範囲のほうがが広がり、アラビア語がおろそかになり始めているのだ。英語を話すインドからの出稼ぎ者の割合が、外人出稼ぎ者全体の42・5パーセントを占めるに至っているのだ。
これまでも、アラブ首長国連邦の母親たちが、フィリピン人のメイドに子供の世話を任せ切りにしていることから、子供たちが自分たちの母語であるアラビア語ではなく、英語だけでしか話さなくなり、アラビア語が話せなくなっているという指摘があった。
アラブ首長国連邦の治安担当者などは、このような状態が今後も続けば、体制不安に繋がる危険性が高いと指摘している。アブダビの首長(アラブ首長国連邦大統領)は「産めよ、増やせよ」の掛け声を国民に向けて発したほどだ。
このアラブ首長国連邦が直面する不安は、人口が少なく巨額な国家収入がある石油産出国のクウエイトや、膨大なガスの埋蔵量を誇るカタールなどでも、同じ状況にあるようだ。そうであるとすれば、近い将来、日本人ビジネスマンも他の外人出稼ぎ労働者同様に、厳しい居住制限や出入国制限を受ける可能性があろう。