数日前から、イラクの南部都市バスラでは、激しい戦いが起こっている。この戦いは、サドル師が率いるマハデイ軍(民兵組織)と、イラク政府軍によるものだ。
一説には、アメリカ軍もイラク政府軍の側に立って、戦っているということだが、それは十分ありうることであろう。バスラ以外の都市では、アメリカ軍とマハデイ軍の衝突が起こっている、という報告がなされている。戦闘の状況が激しい割には、外国の報道には、何故この戦いが今の時期に起こっているのか、という説明がないのはなぜか。
そこでこの戦闘が、何故、しかも今の時期に、起こっているのかを考えてみた。今回の戦闘が起こる遠因を述べれば、サドル師が現在のマリキー政権に対して不満を抱き、アメリカの傀儡であるとして、閣僚ポストから自派の閣僚を、全員辞めさせたということがある。
その後には、アメリカから「テロリスト組織が石油を盗んで外国に売っている」という報道があった。そのことについては、大分前にご紹介したと思う。もし、サドル氏のマハデイ軍が石油を盗み、外国に売っていたとすれば、ここで言われているテロリストとは、マハデイ軍のことを指している、ということになろう。
それ以外の組織もやっていようが、バスラを支配しているマハデイ軍が、やっていなかったとは考えにくい。は少なくとも、彼ら最もこの石油の輸出をやりやすい、立場にいたということではないか。
チェイニー副大統領がイラクを含む、中東各国を歴訪したが、その目的は石油とパレスチナの和平だった、とチイニー副大統領は何度となく主張していた。つまり、石油はアメリカにとって、現時点では非常に貴重なものだ、という印象を与えたのだ。現在の石油価格の高騰は、車社会であるアメリカにとっては、社会問題化する危険性があろう。
このチェイニー副大統領の中東歴訪の前には「イラクの石油はどこに流れているのか?」というニュース解説記事があったが、こうしたことを考えると、チェイニー副大統領がイラクを訪問した際に、イラク石油の80パーセントを積出しているバスラ港と、その周辺をイラク政府軍が早急に支配しろ、と命令した可能性が高いのではないかと思われる。
今回のバスラでの戦闘について、バスラの治安が非常に危険であることや、マハデイ軍とバドル軍(ハキーム師の組織)の衝突が、そもそもの原因だとする説などがあるが、そうではなかろう。
また、今年の10月に予定されている、イラクの地方選挙を、有利に導くために、いまの段階でサドル派を潰しておきたい、というマリキー政権の意向によるものだとする説もある。
これまで、サドル師と彼のマハデイ軍は、イランの支援を受けてきている、といわれているが、石油の支配とあわせて、そのことも、今回の大規模な軍事衝突の主要な原因ではないかと思われる。
また、数日前には首都バグダッドのグリーン・ゾ-ン地区、テロリストによってミサイル攻撃を受けた、という報道があったが、その後にも、グリーン・ゾ-ンに対する攻撃があり、数人が負傷したとも伝えられている。
このグリーン・ゾーン地区に対する攻撃を受けた後、アメリカの将軍はテロリストについて「グリーン・ゾーン地区に対する攻撃を行ったテロリストたちは、イランによって訓練され、ミサイルもイランが提供したものだ。」と発言している。
つまり、「イラクの安定化には、不安定を生み出している、イランを攻撃しなければならない。」ということを言いたいのであろう。今回のバスラ攻防戦は、実は最終的には、イランの危険なイラクに対する介入を、印象付け排除に向けたものではないのか。