クルド地区の黄金時代は終ったのか

2008年2月 2日

 先日、クルド自治政府と韓国企業との間で交わされた石油取引契約は、イラク中央政府から無効だとされ、取引は成立しなくなってしまった話をお伝いえしたが、どうやら次第にクルド自治政府の力が、弱くなってきているようだ。

 その理由は幾つかあろう。まず考えられることは、イラク全体の治安状況が次第に改善してきており、イラク中央政府が軍の整備を進めていることから、アメリカ軍が治安維持の役割を後退させ、次第にイラク軍やイラク警察が取って代わってきているからであろう。

 そうなると、クルド自治政府が抱えているペシュメルガ(自治政府軍)は、到底イラク軍には勝てないことから、クルド自治政府はイラク中央政府の意向を、受けざるを得なくなるということだ。

 ペシュメルガは以前から存在し、ある程度の兵器も装備しているとはいえ、実戦経験は皆無に等しい。他方、イラク軍や警察は、テロとの戦いを毎日のように行っており、戦闘技術や戦闘時の腹の据わり方が、ペシュメルガとは全く違うのだ。

 もうひとつ考えられる理由は、トルコ軍のPKK掃討作戦が、実行されたことであろう。トルコ軍が動き始めた当初は、クルド自治政府も強気の立場を採り、PKKを支援するような発言をしていたが、結果的には、PKKをクルド地区から追放することになったし、トルコに対して、PKKが戦いを続けることを、断念させてもいる。

 もし、トルコ軍が本格的にクルド地区に侵攻していたら、ペシュメルガは一瞬にして壊滅していたろうし、これまで建設してきた、クルド地域のインフラは、すべて破壊されていたろう。

 このことは、冷静に考えれば誰にも想像のつくことであろう。トルコ政府はいまだに、クルド自治政府を認めていないことから(イラクは分割されない統一した国家だ、という立場を採っているため)、トルコ政府の真意がどの辺にあるのか、クルド自治政府はトルコ側に対して、どのような妥協をすべきか、全く見当がつかないのだ。

 こうなると、イラク中央政府に頼らなければ、クルド自治区は危険と不安のなかに、おかれることにあろう。そうした理由から、クルド自治政府は最近になって、イラク中央政府に対し、従順な立場を採り始めたのであろう。

 イラク中央政府はトルコ政府とのことや、石油収入イラク国内での分配のことを考慮し、キルクークの帰属をめぐる、住民投票の実施を遅らせているが、クルド自治政府がそれに対し、強い反発をしていないのはその証であろう。

 石油収入の配分をめぐって、人口数に沿って配分すべきだ、という意見が主流であることから、クルド自治政府はイラク国民の23パーセントが、クルド人だと主張しているが、スンニー・シーア・イラク人らは、クルド人の割合は、13パーセントに過ぎないと主張している。この割合についても、クルド人側は少しずつ妥協していかざるを得ないのかもしれない。

 クルド人が賢明に対応していけば、今後もクルド地域の繁栄が維持できるだろうが、少しでも頑なな立場を採れば、これまで平和を謳歌してきたクルド地区も、戦闘地帯に激変してしまう危険性があろう。

クルド地区が平和と繁栄を維持できてきたのは、アメリカとトルコのおかげなのだから。そのアメリカの影響は、少しずつ弱まっていくことが予測される以上、いまこそクルドも真正面から変化への対応を、考えざるを得まい。