冷却化が目立ち始めたエジプト・米関係

2008年1月22日

 唯一の超大国である、アメリカのブッシュ大統領の一言半句は、多くの国にとって、まさに決定的なもの、として受け止められるようだ。

 ブッシュ大統領はイスラエルを訪問し、パレスチナ問題の解決が近いことを高らかに宣言したが、何の具体的な中味もなかった。そのことは、世界中の中東専門家が、共通して抱いた印象であると同時に、アラブの大衆も、同様の印象を強くしたようだ。

 イスラエルの後に訪問した湾岸諸国では、イランの脅威を強調し、イランが核を製造する前に、軍事攻撃すべきだ、ということを主張して回った。しかし、湾岸諸国のどの国も、ブッシュ大統領の主張に、耳を貸そうとはしなかった。

そんな軽はずみなことをしたら、後で、イランとの間に、多くの困難な問題を抱えることになることを、彼らが一番よく知っているからだ。サウジアラビアなどは、ブッシュ大統領が帰国した後、早速とでもいった具合に、国王がイランのアハマド・ネジャド大統領と連絡を取り、ブッシュ大統領訪問の経緯を、細かく説明したようだ。

湾岸諸国の後に訪問したエジプトでは、国民がブッシュ大統領に対する、反対デモを展開し、明確に「ノー」という意思表示をした。政府は当然のことながら、戒厳令並みの警戒網を敷いたようだ。

もちろん、ムバーラク大統領とブッシュ大統領の会見場所は、ムバーラク大統領ご自慢のシャルム・エルシェイクで行われたため、エジプトの首都ではどんな状況であったのかを、短時間のエジプト訪問で終えたブッシュ大統領は、知る由もなかったろう。

ブッシュ大統領は湾岸諸国でもそうだったが、エジプトに対しても、民主化を推進するよう強く求めたようだ。しかし、それは一朝一夕には実現できるはずがない。ブッシュ大統領の発言は、現実を無視した乱暴な要求として、ムバーラク大統領には受け止められたことであろう。

そうした雰囲気は、アメリカをしてムバーラク体制に対する、不満と不信感を強めたようだ。結果的には、湾岸諸国やパレスチナ自治政府の立場を、全く説明、擁護できなかったムバーラク大統領に対する、失望感がアラブ諸国政府の間に広がったようだ。これでますます、エジプトのアラブ諸国間における、指導的立場は弱まったということであろう。問題は、アラブ諸国には彼に代わるけん引役、代表者がいないということだ。