ブッシュ訪問にアラブ全体が反発

2008年1月12日

 ブッシュ大統領が、イスラエルとパレスチナを訪問し、和平の進展に努力した。この訪問は中東問題の解決に風穴を開け、今年中の問題解決への道を、大きく開いた、、。

 多分、ブッシュ大統領と彼の今回の訪問に関った、すべてのアメリカ人はそう思いたいのであろう。しかし、アラブ側は全くこれとは反対の評価を、ブッシュ大統領の訪問に下している。


 ブッシュ大統領の訪問は、イスラエルにとっては得るものがあったが、パレスチナ側には何もなかった、空虚なスローガンだけを並べた、ブッシュ大統領の演説には、パレスチナの根本的な問題に関る解決への、糸口は何も見当たらなかったからだ。

 パレスチナ問題がこれまで、何の進展もないままに、一方的なイスラエルの入植地拡大を許してきたのは、パレスチナ側が頑迷だからだけではない。パレスチナ問題の根本部分である、難民の期間問題をどうするかということと、イスラエルは領土面でどこまで譲歩するか、ということだった。

 現実には何百万人という、多数のパレスチナ難民を、パレスチナ自治政府が受け入れ、面倒を見る能力などない。もし、そうすると言うのであれば、それは世界から寄付を集める口実だけであり、寄付金のほとんどは、一瞬にしてパレスチナ幹部の懐、消えていくことになろう。

 彼らパレスチナ幹部は、帰還させようとは思っていないが、これが世界に対する寄付を集める切り札であり、パレスチナ人の間では、ありえない夢を見続けさせることのできる睡眠薬なのだ。

現実には不可能な、パレスチナ難民全員の帰還を、不可能なものとして取り下げれば、たちまちにして、パレスチナ自治政府は崩壊し、ファタハも分裂し、消えてしまおう。

 しかし、ブッシュ大統領は、パレスチナ難民が彼らの父祖の地、親が、あるいは自分が住んでいた、イスラエル領土内の自宅に帰る権利を、全く認めなかった。ブッシュ大統領が言ったのは、「彼らの帰還権を認める必要はないが、補償だけはしろ」というものだった。つまり、「難民問題は金でけりをつけろ」というものだった。

 パレスチナ難民問題に関するブッシュ大統領の発言は、国連決議第194号に違反するものだ、とパレスチナ議員のバッサーム・サーレハ氏は抗議している。国連決議第154号によれは「すべてのパレスチナ難民は、自分の家に戻れる」ことになっているのだ。

 領土問題でも、1967年の境界線を重視するものの、1967年戦争以前の地点まで、イスラエル側は撤退すべきだ、とはしなかった。それどころか、西岸地区の入植地については、十分に検討する必要がある、といった含みの発言までしているのだ。

 さすがに、これではマハムード・アッバース議長も、内心では困り果てていることだろう。当然のことながら、ハマースの出身のであるイスマイル・ハニヤ・パレスチナ首相をはじめ、マハムード・アッバース議長の所属するファタハの幹部からも、激しい非難の声が上がっている。

 ブッシュ大統領は、パレスチナ・イスラエル問題の解決に向けて努力するため、5月にもイスラエルを訪問するというが、今回と同じ立場で「努力」するのであれば、何の成果も上がらないことは、いまから明らかであり、それどころか、かえってアラブの反発、反米感情をあおることになろう。

アメリカ政府内には、パレスチナ問題の基本的本質を、理解している人物はいないのだろか。