トルコに対する西側の疑心暗鬼

2007年12月30日

 トルコ軍が自国の安全のために展開し始めた、PKK掃討作戦について、西側諸国の多くはトルコの主張とはまったく違う、認識を抱いているようだ。

 トルコに対する疑心暗鬼が、西側諸国の専門家の間で高まったのは、トルコ政府がPKK対応について、トルコ軍と全く同じ立場に立ったことに起因しているようだ。

これまで、トルコ軍と政府との間には深い溝があり、意見の一致を見ることはなかったのに、今回は全く同一の歩調をとっているためであろう。トルコの政治家が進める政策が、トルコ国家の利益にならないと判断した場合、トルコ軍は常に軍事力を持って、政治の流れを変えてきていたため、政府と軍、あるいは政治家と軍人との間では、相互に嫌悪感が広がり定着していたのだ。

そのことは、外国がトルコの内政に関与しようとする上で、すこぶる好都合なことであった。しかし、現状を見ると、外国がトルコの政策に対して干渉しても、トルコ内部では亀裂が生じ難くなっている。

西側諸国は、トルコの軍と政府が一体化し、トルコが強化されていくことに、幾分の不安を抱き始めているのかもしれない。そうしたなかから出てきたのが、以下のような内容の推測だ。

トルコがPKK掃討作戦として推し進めている、イラク北部のクルド地域に対する空爆は、実はPKKによるテロ活動を阻止することを主な目的としているのではなく、イラク北部のクルド地域がイラクから分離して、国家を設立することを阻止するためのものだ。PKKに対する対応というのは、それをカムフラージュするためのものだ、というのだ。

加えて、西側諸国の専門家たちは、現在アメリカはこのトルコによる、PKK掃討作戦に協力しているが、もし、トルコ軍の攻撃によって一般市民が犠牲になるようなことになれば、直ちに協力を取りやめることになろうというのだ。

そうなれば、現在アメリカによって進められている、トルコに対する情報提供が止まるばかりではなく、アメリカがトルコを非難することも始められる可能性があるというのだ。

こうした西側諸国の専門家の判断には、大分トルコに敵対する意図と、間違いがあるものと思われる。そもそも、現在トルコの軍と政府が一体となっているのは、明確な敵PKKが存在し、PKKのテロ活動によって、トルコ国民が犠牲になっていることに起因しているのだ。

このため、トルコの軍も政府もトルコ国民の前で、事態を放置できなくなり、結果的に、最小限の軍事行動をとっているのだ。トルコ政府や国民、軍部には、一気にイラクのスレイマニヤまで軍事侵攻したい、という意向もあるのだが、それをかろうじて止めているという状況なのだ。

アメリカがこれから先、トルコに対し協力的な立場から、敵対的な立場に変わるとも考えにくい。ロシアが中央アジアや中東に再台頭してきているなかで、アメリカはトルコとの協力を強化するほうを、選択すると考えるのが常識であろう。それだけトルコは中東地域での存在価値を高めてきているのだ。