シリア北キプロス間定期船便スタートの意味

2007年10月14日

 シリアと北キプロス政府との間で、シリアのラタキア港と、北キプロスのファマグスタ港を結ぶ定期の船便がスタートした。  この定期便は毎週、月曜日と木曜日に両港の間を就航することになった。この定期船便を就航させることについて、シリア政府と北キプロス政府との間で合意が交わされたのは、両国の観光活性化を狙ったものだということだ。

 しかし、キプロス政府は北キプロスの分離独立を認めておらず、北キプロスとシリアとの間で、このような合意が交わされたことに抗議している。キプロス政府はシリアのような友好国が、このような合意を交わすことは受け入れられない、と強い批判の声明を出している。  北キプロスは現在なおキプロスの一部であり、その存在を認めているのは、同じトルコ人によって北キプロスの住民が構成されていることから、トルコ政府だけだ。シリアが今回北キプロス政府との間で正式な合意を交わしたことは、結果的に北キプロス政府の存在を認めたことにもなる。

 シリアはヨーロッパが支持するキプロス政府を無視し、何故現段階で北キプロス政府との間に、このような合意を交わしたのであろうか。  想像するに、この合意の裏には、トルコとシリアの密約が存在するのではないか。しかもそれは、シリアとイスラエルとの関係にも関わるものではないか。  イスラエルはトルコとの間で、ガス、石油、水の供給の話を進めており、その際に北キプロスが経由地になるのだ。将来的には、トルコ、北キプロス、イスラエルは、ガスや石油、水、電力を輸送する、パイプラインで結ばれることになるのだ。

しかし、もしシリアがこのプロジェクトに加われば、工事費は大幅に安くなるのではないか。 (この私の推測を裏付けるようなニュースがある。それはイスラエルのバンク・ハポアリムが北キプロスに支店を開設すると駐トルコのガビー・レビ・イスラエル大使が語っているのだ。) 

 シリアがトルコの説得を受け、いまだに和平合意に達していない、イスラエルを益するこの計画に加わるということは、将来的な和平関係を意識し、間接的にその意思を、イスラエル側に示したのではないかと思われる。  シリアはトルコとイスラエルが、これから推し進めようとしている、中東全体のイニシャチブを握る構想に、一枚加わりたいということではないのか。

 しかし、そのことは、現在良好な関係にあるシリアとロシアとの関係に、亀裂が生じる危険性もあろう。この北キプロスとシリアの定期航路の開始は、次の段階であるパイプライン計画の、推進を読み込んでのものと思われる。  そして、それはシリアのロシア離れ、アメリカ寄り(西側寄り)のステップが、既に踏み出されたということではないのか。あるいは、それを期待してのことではないか。そうであるとすれば、中東全体の現状認識と今後の予測には、大幅な修正が必要になる、中東専門家が続出するのではないか。