M・アッバース議長の矛盾する決定

2007年10月30日

 マハムード・アッバース議長がハマースによる、西岸におけるクーデターの可能性を警告している。しかも、彼は二つの興味深い点を指摘している。 
 ひとつは、ハマースがアラファト議長から、資金を得ていたという話だ。そしてもうひとつは、ハマースが外国から資金を得ているという話だ。その資金提供国の名前を、マハムード・アッバース議長は明かさなかった、彼の側近はシリアとイラン、そしてカタールだと明かしているのだ。

 しかし、このマハムード・アッバース議長のハマース批判は、聞きようによっては墓穴を掘ることになるのではないか。シリアやイランが資金援助をしていることは以前から知られていたし、カタールについても同様に、専門家筋の間では知られていることだった。つまり、マハムード・アッバース議長の今回の発言は、何も目新しい情報ではないのだ。

 マハムード・アッバース議長がここに来て、このようなことを口にするのは、彼の立場が弱体化してきているからではないのか。しかも、アラファト議長までもが、かつてハマースに資金を与えていたとなれば、それはマハムード・アッバース議長とファタハに対する、アラファト議長の信頼が弱かったからではないのか、ということになろう。

 マハムード・アッバース議長は、これまで拒否していたハマースとの対話を、復活していいとも言い始めている。そして彼は、ハマースとイスラエルとの間には、秘密の対話が行われていると言うのだ。

 そのいずれもが事実であるとすれば、イスラエルもマハムード・アッバース議長に対する信頼感を弱め、ハマースとのチャネルも開いておいた方がいい、という判断をしたということではないのか。

 そこで気になるもうひとつの情報がある。それは、マハムード・アッバース議長がパレスチナ警察の3万人を、首にするという決定だ。そんなことをすれば、ハマースの西岸での勢いは増すことになろうし、首になった3万人の警察官は、ハマースの側につくことが予想される。

 ファタハの幹部の中から、この警察官3万人を首にするという決定は、自殺行為だという批判が起こっているが、警察幹部も同様に受け止めている。

 一体誰が、マハムード・アッバース議長にこのような決定を下させたのかと言えば、アメリカとEU だというのだ。パレスチナ自治政府のずさんな雇用に対する、厳しい批判が行われたということであろう。現在パレスチナ警察はほぼ8万人いるが、その半分は仕事をせずに、給料だけを受け取っているということだ。

 そもそも、1994年1995年に交わされた、イスラエルとパレスチナ自治政府との合意では、パレスチナ警察軍の数は3万人に限定されていたはずなのだが、パレスチナ自治政府は大衆の引き付けのために、このような無駄なことを行っていたということであろう。

 ここに来てその付けが、一気にパレスチナ自治政府に降りかかってくる、ということではないのか。マハムード・アッバース議長の体制は、大きく揺らいでいるし、今後はもっと弱体化するということであろう。