イランの複雑な国家構造と不安

2007年9月18日

 中東地域に限らず、大陸国家はいずれも自国内に、多くの異なる民族を抱え込んでいる。イギリスやインドネシアの場合は島国であるにもかかわらず、異なる民族の複合体で、国家が出来上がっているのだ。
大陸国家の場合は、今回世界中が知ることとなった、イラクの例に見るように、クルド民族とアラブ民族、トルコ系民族など複数の民族によって、ひとつの国家が形成されている。


 そのような国家構造は、ある外的あるいは内的要因によって、簡単に安定を崩すことになりかねない。いま、その危険と立ち向かわなければならない状況にあるのは、イランであろう。

 イランはペルシャ民族に加え、アゼル人、クルド人、アラブ人、バルチ人などが、イラン国民として同居しているのだ。アゼル人はイランの北部に主に居住し、クルド人はイランの北西部に、アラブ人はイランの南西部のアフワーズ地域に主に居住している。

 加えて、パキスタンやアフガニスタンの国境地域から、イランの南東部にかけては、バルチ人が居住している。彼らは機会を見て、イランから分離しようと考えている。そのなかでも、アゼル人とバルチ人は、その意向を最も強く、抱いているのではないだろうか。

 クルド国家樹立の夢が大きく膨らんできている昨今では、クルド民族もまたイランの一部を、自分たちの土地だ、と主張してくる可能性があろう。
ところで、これらのペルシャ民族と他の民族地が入り混じる地域では、ほぼ共通した傾向が見られる。それはアフガニスタンやパキスタンで栽培され、一時精製された麻薬が通る、密輸ルートになっているということだ。
加えて、山岳地帯が多く、イラン軍の活動が、大幅に制限される地域でもある。イランとのイスラム教宗派の差異から、アルカーイダが反イラン政府の、働きかけをしやすい地域でもある。

 さてこの文章の元になった記事が掲載されたのは、サウジアラビアがスポンサーとなっているアルハヤート紙だが、何故アルハヤート紙はこのような記事を、掲載したのであろうか。

 うがった捉え方をすれば、サウジアラビア政府はアメリカに対して、イラン対応は戦争ではなく、内部分裂工作にすべきだと言いたいのではないか。それは、戦争という手段がもたらすダメージが、あまりにも大きすぎるからであろうか。