トルコ第11代ギュル大統領に軍は?

2007年8月27日

 トルコのセゼル大統領の後任として、第11代大統領選出をめぐり、いままでトルコ国内では賛否両論が飛び交った。結果的に大幅な遅れを示したが、当初の予想通り、与党AKP(開発公正党)のギュル外相が選出された。  AKPがギュル外相を大統領に推した時点で、トルコの軍部はギュル外相の夫人がスカーフを着用していること、ギュル外相自身がイスラーム保守派であること、AKPがイスラーム保守党であることなどを理由に、トルコがケマル・アタチュルクの世俗主義路線から、イスラーム保守の国家に戻るとして、ギュル外相の大統領就任に反対してきた。



 トルコ軍の内部からは、ギュル外相の大統領就任が実際に決まるようであれば、クーデターも辞さないという立場を示す、ギュル外相の大統領への擁立に対する、強硬な反対意見がネットを通じて流されもした。  トルコの野党、なかでも、CHPなど世俗路線を採る社会主義政党などは、ギュル外相の選出に反対し、議会での大統領選出討議にはボイコットも行ったし、イスタンブール、イズミール、アンカラなどでは、100万人集会も行った。しかし、冷静に見ていると、その参加者は全国から集められたものであり、一都市の住民が集まったものではない、人為的なものであることがわかった。

 今回のギュル大統領誕生という結果は、国会議員選挙でAKPが47パーセントも得票した後でもあり、ほぼ予測できるものであったといえよう。しかも、AKPに加え民族派のMHPも、相当ギュル大統領の誕生に貢献したようだ。つまり、今回の選挙結果は、大半のトルコ国民の意思であったといえよう。  日本の一部の新聞には、この大統領選出の結果を受けて、トルコ軍がクーデターに向けて動くのではないか、という予測記事が出ているが、その可能性はきわめて低いのではないかと思われる。

 若手将校が決断して、彼らだけでことを行うのであれば別だが、軍のトップであるブユカヌト参謀総長は、既に汚職の証拠をエルドアン首相に握られており、クーデターを起こせる立場にはないという情報もある。  大統領の権限には、軍のトップ人事を決定する権利もあることから、ブユカヌト参謀総長が留任したいのであれば、クーデターを起こすことはあるまい。また残留を希望せず、あくまでも世俗主義を守りたい、ということで行動を起こそうとすれば、トルコ軍は国民の支持を完全に失うことになろう。

 今回、トルコ軍のネットで流されたという「世俗主義を守る」という軍の立場は、ギュル大統領誕生に向けた軍の一部将校による、ささやかな抵抗ではなかったのか。国民は世俗主義も大事だが、多少イスラーム保守色があっても、確実に経済を改善してくれる政党を選択しようし、その期待が持てる人物を、大統領に選択するということではないのか。