やはり始まったロシアのトルコ締め付け

2007年8月 5日

トルコがイランとの関係を改善し、それまで不可能だった、トルクメニスタンのガスをイラン経由で、トルコに持ち込むことに成功した。もちろん、それはこれから始まる、トルクメニスタン・イラン・トルコというガス輸送用のパイプ・ラインが完成しての話なのだが。

 しかし、アメリカもロシアも、このトルコの動きを放置するはずがなかった。アメリカにしてみれば、トルコが生意気にもエネルギー分野に進出してくる、しかも、それはアメリカが経済的締め付けを行っている、イランとの交渉結果だとなれば、見逃すわけには行くまい。

 だが、アメリカにしてみれば、今回のトルコの動きは、必ずしもマイナスばかりではない。ロシアの中央アジア諸国に対する影響力をそぐ意味では、有効な動きとも言えよう。  トルコがイランと合意し、トルクメニスタンのガスを直接イラン経由で運び出すことにより、ロシアのトルクメニスタンに対する影響力は低下し、しかも、ロシアはいままでのような安値ではトルクメニスタンのガスを買えなくなろう。

 加えて、ロシアのトルクメニスタンに対する政治的な影響力も、低下せざるを得まい。同様に、カザフスタンについても、ロシア経由だけではなく、イラン・トルコ経由でガスや石油が輸出出来るようになろうことから、ロシアのカザフスタンに対する影響力も低下するということだ。  当然のことながら、ロシアはこうした影響が出ることが確実な、今回のトルコの動きを放置するわけがない。早速、ロシアはトルコに対するガスの供給を増やさないことを伝えた。現在の契約は2011年までということであり、それまでは、少ないながらも供給が続こうが、その先については、ガスの供給を停止することもありうるというものだ。

 この動きのなかで、EUはどのような対応をするだろうか。多分に、トルコの味方をするのではないかと思われる。EUの多くの国が、ロシアのガス(ほとんどはトルクメニスタンのガスといわれている)に依存し、政治的な影響も受けかねない状況にあっては、トルクメニスタンのガスがイラン経由で、トルコからEU に送られるのは好都合であろう。そう考えればEUは少なくともトルコとロシアの争いの中で、中立の立場を採ることが予想される。  アメリカも渋々ではあるが、今回のトルコの動きを黙認するのではないか。後は、トルコのエルドアン首相の運がどこまで強く、どれだけトルコが微妙な外交を展開するかに、成否がかかっているのではないか。

 ロシアがあくまでも、力づくでトルコに覆いかぶさってくれば、トルコはロシア艦隊に対し、ボスポラス海峡の通過を制限する動きに出るかもしれない。ロシアはいま、黒海から地中海にまたがる地域をカバーする、艦隊の設立に重点を置き、シリアのタルトース港をその拠点にしようと考えている。  いずれの結果が出るかは別に、当分の間、トルコとロシアの間には緊張関係が続くということであろう。