アフガニスタンの韓国人人質問題

2007年8月 4日

 もう10年以上前のことだが、日本の日蓮宗の尼さんと坊さんが中東で鎮魂の活動をしたい、と相談に来たことがある。  全く英語を介さない人たちであり、しかも、中東は初めてのことだった。二人は中東の状況があまりにも悲惨だから、そこには浮かばれない霊が沢山いるはずだと語り、必死に私に実現できるようにと依頼してきた。


 まず、第一の問題は現地でのアパート探しだった。これはカイロに住む日本人に依頼し何とかなった。この人は日本人だからということで、カイロでジャポニカ米の高品質のものを手配し、彼らにプレゼントしてくれた。  もうひとつ気がかりだったのは、彼らの行動が奇異であり、しかも、英語もアラビア語も出来ないことから、現地の人たちに誤解され、危害を加えられないかということだった。

 そこで「平和を祈ります」という一文を、白い布に英語アラビア語で書き、それを何時も掲げて歩くように指示した。彼らは坊さんのいでたちに、頭陀袋を掛け、平和祈願の布をつるし、ウチワ太鼓を叩いて、カイロを手始めにエジプト中を歩き、エルサレムにも祈願に行った。  彼らには言わなかったが、イスラーム社会では、基本的に他宗教徒が入ってくることを歓迎しない傾向が強い。そして他宗教徒が宣教活動をすることを、禁止している国が少なくないのだ。

 エジプトなどが、法律にそった厳しい対応を彼らにとっていたならば、彼らは何日か、あるいは何ヶ月か拘束され、その後で国外追放になっていただろう。そこは観光国と文化のレベルが高いエジプトだったから、問題にならずにすんだのだ。  さて、アフガニスタンの場合だが、アフガニスタンもイスラーム教徒の国だ。しかも、そこで大きな勢力を持っているのは、タリバンと呼ばれるイスラーム原理主義の人たちだ。

 そのタリバンとアメリカ軍が衝突し、何万人ものアフガニスタン人が犠牲になっている。述べるまでもなく、アメリカ軍の兵士はほとんどがキリスト教徒という、異教徒であり異邦人なのだ。  その外国人がアフガニスタン人に、不幸と悲惨をもたらした、という認識をアフガニスタン人のすべてが抱いているのだ。カルザイ大統領などは裏切り者の傀儡でしかない。誰も彼の権威など認めていない、と認識すべきであろう。

 そのアフガニスタンにでは、今でもタリバンとアメリカ軍をはじめとする、外国軍とが戦っている。そこでは、毎日おびただしい数の死傷者が出ているのだ。  そこに外国人のキリスト教徒が入っていった。しかも、そのメンバーの多くは女性だ。彼らは人道援助活動をするといって入ってきたが、アフガニスタンの歴史のなかで、外国人は支援の名の下に土足で入り込み、アフガニスタン人を殺し、物を奪っていったといううのが、アフガニスタン人の受け止め方だ。

 女性がアフガニスタンの中を歩き回ること自体が嫌悪され、しかも、その女性は異教徒であると来れば、全く歓迎されないどころか、アフガニスタン人からすれば、嫌悪の対象であり、彼らのイスラーム慣習、社会文化を破壊する敵でしかないのだ。  韓国のキリスト教徒の人道活動家たちが、タリバンに人質になり、既に犠牲者が出ている。そのこと自体は悲しむべきことであり、哀悼の意を述べる気持ちは私も同じだ。

 しかし、あまりにも無謀であり、相手の社会習慣、宗教観を無視した、身勝手な行動でもある。イエス・キリストは飢えたライオンが眠りについているとき、ライオンの尾を踏んで自分を食べさせろと教えたのだろうか。そんなことはあるはずがない、と思うのは私がイスラーム教徒であり、キリスト教について無知だからだろうか。