ガザでの戦闘で、ファタハはハマースに惨敗し、西岸に逃れてから既に１ヵ月半ほどの時間が過ぎている。 　最近、ガザでの敗北に関するファタハの報告書が出来上がったようだが、その報告書が出る以前から、治安の最高責任者であるムハンマド・ダハラーンに対する、厳しい批判がファタハ内部では高まっていた。

　なかでも、彼の最大のライバルである、西岸の治安最高責任者のブリール・ラジューブは、ムハンマド・ダハラーンがこれまで就いていた、マハムード・アッバース議長の治安最高顧問彼の立場を確保しようと、ムハンマド・ダハラーンを追い込む言動をしている。 　ムハンマド・ダハラーンに言わせれば、自分はひざの病気治療にカイロに行っていたのだから、留守中にハマースと戦って負けた連中に、敗北の責任があるのであって自分にはない、ということだがそう簡単には責任を逃れられなかったようだ。

　そもそも、このムハンマド・ダハラーンという人物は、何故３０代の後半からファタハ内部で頭角を現し、４０代にしてファタハの大幹部にのし上がったのであろうか。 　彼は英語とヘブライ語を自由に操り、どちらかというとアラブ人というよりも、アメリカ人に近い言動をしていたようだ。そのため、イスラエルやアメリカの政府高官との関係が強くなっていた。なかでもライスは彼を気に入っている、という報道が何度も流されていた。

　アラファト議長存命中に、ムハンマド・ダハラーンは既にアラファと議長の側近中の側近にのし上がっていた。そのことはアラファト議長のイスラエルやアメリカとの秘密の取引の相当部分を、アラファト議長自身からとイスラエル、アメリカの高官から聞いていたのではないか。 　マハムード・アッバース議長がムハンマド・ダハラーンの首を切りにくかったのは、実はそこに原因があったのではないか。つまり、これまでのファタハ幹部の間で行われていた、金にまつわる秘密を、ムハンマド・ダハラーンは相当詳しく知っていたし、彼自身もその一員であったのではないかということだ。

　もし、この推測が正しければ、やがてほとぼりが冷めた頃には、ムハンマド・ダハラーンの復帰が実現するのではないか。多分に、マハムード・アッバース議長から「当分の間ほとぼりが冷めるまで静かにしていろ」という指示が出たものと思われる。