エジプトのムフテイ、イスラム教徒は改宗できる

2007年7月25日

 エジプトの宗教最高権威のムフテイであるアリー・ゴモア氏が「イスラム教徒は他の宗教に改宗することが出来る」と発言し、話題を呼んでいる。  宗教的に厳しくない日本においては、個人がある宗教から他の宗教に改宗することは、当然の権利であろうと思われるだろうが、イスラム教徒がキリスト教や他の宗教に改宗することは、イスラム社会では至難の業なのだ。

 イスラム教を離脱し、他宗教に入信した者は、場合によっては死罪ということになる。それはイスラム初期に例があるからだ。預言者ムハンマドが死去した後、アラブ人のムスリムのなかには、イスラム教から離脱する者が続出したが、そのときは力で抑え込んでいる。  今回エジプトのイスラム教の最高権威であるムフテイであるアリー・ゴモア氏が、他宗教への改宗を認めたことは、ワシントン・ポストに掲載されたものだが、大きなショックとして、イスラム世界では広がっていくものと思われる。

 イスラム世界では、預言者ムハンマドや彼の追従者たち(アスハーブ)が行ったことが、最も確実な法的根拠となっているため、今回のムフテイの判断は、これと異なるものと考えられる可能性があり、反論を呼びおこす可能性があるからだ。  しかし、このニュースをよく読んでみると、どうやら今回のファトワは、例外的な措置であり、しかも政治的な配慮からのものである可能性が多分にある。それは、ここで対象になっているイスラム教徒とは、エジプトのコプト・キリスト教徒がイスラム教に入信した後、不都合を感じコプト・キリスト教徒になりたい、というケースが発生したことから出されたものだからだ。

 したがって、エジプトのムフテイはコプト・キリスト教徒からイスラム教徒に改宗した者が、再びコプト・キリスト教に戻ることを認めたものであり、いわば、臨時的救済措置であり、政治的判断であったということであろう。 元来、イスラム教徒であった者が、たとえば仏教徒やキリスト教徒に、改宗することを認めたものではないということであろう。

 これがイスラム教徒からの他宗教への改宗を、全面的に認めるものであるとすれば、世界中のイスラム法学者(フカハ―)から、激しい非難を浴びることになったであろうと思われる。