何故?ブレア元首相の中東和平担当就任

2007年6月30日

 ブレア氏がイギリスの首相の座を降りることが決まると、アメリカは彼に対して、中東和平の調整役になることを要請した。アメリカは中東和平を真剣に考えており、中東に長い間かかわって来た歴史を持つ、イギリスの有能な元首相を引き出した、ということであろうか。

 確かにそうであろう。イギリスは現在多くの問題を生み出している、中東各国の国境線を決めた、大きな責任のある国家だ。オスマン帝国を分断し、アラブを幾つもの国に区分けしたのは、他ならぬイギリスなのだ。(この目的で、アラビア半島に送り込まれたアラビアのロレンスは、欧米でも日本でも英雄として認識されているが、アラブ人の間では、すこぶる評判の悪い、「裏切り者のスパイ)という評価が固まっている)

 そのイギリスが決めた国境が、後に多くの問題を中東地域全体に生み出しているし、現段階では古くて実情に合わない国境になっているという事実は、昨年アメリカの退役中佐が書いた「新中東地図」の論文でも明らかであり、中東各国は別としても、欧米の政治家の誰しもがそう考えている。  そのことに加えアラブ諸国は、イギリスのブレア首相がアメリカのブッシュ大統領と並び、現在のイラクの大混乱と悲劇を生み出した、張本人の一人であることを熟知している。ブレア氏はブッシュ大統領の並べ立てた、イラク攻撃のための嘘の口実を、真っ先に支持した人物なのだ。

 そもそも、ブレア首相が首相の座を降りることになった原因のひとつは、イギリス国内で彼が進めた、強硬なイラク対応に対する反発が、国内で強まっていたことがあってではなかったのか。  こ有漢が得て見ると、あまりにも問題の多いブレア氏を、アメリカは何故この時期に、アメリカが推進しようと考えている、いわば中東和平推進の最高責任者の立場に、就けようというのだろうか。アメリカがそう考えたのには、しかるべき目的と理由があってのことであろう、と考えざるを得まい。

 無責任な推測が許されるならば、以下のようなことが考えられるのではないか。

1:アメリカは世界に対して説明の出来る、イラン攻撃の口実が見つかれば、いまでもイランを攻撃したいと考えている。そのときまで、ブレア氏に政治の世界に、しかるべき重要な役割を担った状態で、留まって欲しい。

2:イギリスの中東地域における信用を完全に失墜させ、世界からもイギリスが軽視されるような状態を創り出す。それは、アメリカの完全なイギリスからの独立を、勝ち取ることにつながる。

 誰にでも納得がいく推測は(1:)であろう。つまり、ブッシュ大統領はいまだに、イランに対する軍事攻撃を希望している、ということではないのか。 しかし、現実には空爆だけでは、イランの体制を倒せるとは思えないことから、アメリカ軍の相当の犠牲を覚悟しなければ、イランとの戦争は始められないのではないか。アメリカにいまできるイラン対応は、低烈度戦争だけなのかもしれない。