マハムード・アッバース議長がイスマイル・ハニヤ首相の率いる、ハマース政府を潰すために強引に結成した、ファッヤード氏を首班とするパレスチナの新政府は、西岸地域のモスクのイマームたちに対して、政治的なホトバ（説法）をするなという禁止令を発した。

　確かに、モスクのイマームたちがジハードをあおっている場合が少なくはないが、だからといって政府がモスクのイマームに対して、パレスチナの抵抗運動に関するホトバを禁止するというのは、やはりやり過ぎであろう。

　モスクで行われる金曜日の昼の集合礼拝は、これまで占領下にあるパレスチナ人たちを励まし、必要によっては抵抗することを説得してきていたのだ。 　イスラエルの占領下にあったパレスチナの人たちが、ある日突然立ち上がりインテファーダを始めたことが、結果的には新しい大衆運動をパレスチナ人の間に起こし、それが成果を生み、現在のようなパレスチナの自治への道が開けたのではなかったのか。

　そもそも、モスクはアッラーの家であり、そこでは宗教を学び、貧者を救う社会的な互助運動を呼びかけ、地域の諸問題を話し合い解決してきたのだ。その自由は認められ敵他のだ。したがって、マハムード・アッバース議長も軽々に介入すべき性質のものではあるまい。 　パレスチナ新政府の命令により、西岸地区の多くのイマームが政治的ホトバをすることを控え始めたようだが、かえって反発を生むものと思われる。マハムード・アッバース議長と彼が命じた新政府の首相に対する、ホトバとは違う形の、反発の手段が見出されることになろう。

　その場合は、イマームのようなイスラームの見識のある人物ではない、過激な考えを持つ者の考えも、密かに流布されることになろう。イマームはマハムード・アッバース議長とは違う路線であっても、シャリーア（イスラム法）に反するホトバをすることはないのだ。 　つまり、イマームたちのホトバが禁止されることによって、かえって過激な考えが西岸地区に広がり、マハムード・アッバース議長に対する反発は、強まることはあっても、弱まることは無いということだ。

　一部のイマームたちは、マハムード・アッバース議長の禁止令に反して、政治的なホトバを続けているようだが、そうなるとマハムード・アッバース議長は、ファッヤード政府に対し強硬措置をとるよう命令することになろう。 　そうなれば、ますますマハムード・アッバース議長に対する批判は強くなり、かつ広範にわたることになろう。政治家は出来るだけ、イマームのホトバには口を出すべきではあるまい、政治家の場合は善悪の基準があいまいであり、大衆に信じ込ませることは出来ないが、イマームにはアッラーのシャリーア（イスラム法）という、動かし難く否定できない武器があるのだ。

　今回、マハムード・アッバース議長がイマームに対して、政治的内容のホトバを禁止するという強硬措をとったということは、彼の精神的なあせりを感じさせる。そして彼の立場が、ますます弱体化していくことを、予測させる。