ガザで起こったファタハとハマースの武力衝突の後、ファタハのメンバーは全員、ガザから西岸へと移動した。

　以来、ファタハは西岸でのプレゼンスを確かなものにするために、種々の暴力的な示威行動をしている。そのなかには、全く理にかなわないものもあるようだ。たとえばハマースのメンバーではないが、ヒゲを伸ばしている宗教熱心な中高年者を逮捕したり、彼らに暴力を振るったりということまで起こっている。

　現在までのところ、ガザはハマース側の優位な場所であり、西岸はファタハの優位な場所といった、棲み分けのような状況が続いているが、それが何時まで続くかは誰にも分からない。
ガザはハマースが優勢であり、西岸はファタハにとって優勢な地域だと一般的に言われているが、実態はそうではないのではないか。そもそも、ハマースが選挙で勝利して政権を握ったとき、西岸での選挙ではファタハが絶対優勢だったのかといえばそうではない。

　西岸でもハマースは得票し、優位に立っていたのだ。現在の段階で、そのハマースがあたかも西岸ではファタハ優位の状況を許しているのは、しかるべき計算があってのことではないのか。
　ファタハがハマースのメンバーを逮捕し続け、それに加え宗教熱心なハマースのメンバー以外の人たちも逮捕したり、嫌がらせをするような状況が続けば、おのずとファタハの支持者たちも、ファタハから離れていくことになろう。

　西岸ではハマース支持者が姿を消したのは、ファタハが如何に強硬な措置をハマースとそれに類した住民に対してとっているか、ということの査証であろう。したがって、西岸の住民はハマースのメンバーもそれ以外の支持者も、自分の立場を明かさなくなっているだけではないのか。
　そうした仮面の下の反ファタハの住民たちを、ファタハ側にひきつけるために、ファタハは現在西岸のヒーローである、イスラエルの獄中にあるマルワーン・バルグーテイを、何とかイスラエルに釈放してもらおうと努力している。彼を釈放させることが出来れば、ファタハの支持者を増やせると思っているからだ。

　しかし、もしそれがかなったとしても、マルワーン・バルグーテイが現在のような妥協をし過ぎる、マハム－ド・アッバース議長の率いるファタハを支持するかどうかは別であろう。

　アメリカやヨーロッパはマハムード・アッバース議長を支持することを明言したが、マハムード・アッバース議長の立場を強くするための、経済援助やマルワーン・バルグーテイの釈放に、どこまで協力するのかは疑問がある。それ無しには、西岸の住民もある日突然、マハムード・アッバース議長と彼が率いるファタハに対し、愛想を付かすかもし