ハマースがファタハとの戦いに勝利し、ガザを完全支配した。そのことはファタハにとって、最も不都合な状態が生まれたことを意味する。  　それは、これまでファタハがイスラエル、アメリカ側と交わしてきた秘密合意に関する書類が、暴露されるということだ。もちろんファタハ側は必死にそれを否定するだろうが、アラブ人の誰もファタハの主張を信じないだろう。

　つまり、これまでファタハが主導権を維持してきたのは、イスラエルやアメリカとの秘密合意があったからだということだ。ファタハは両国にとって妥協を引き出しやすい相手だったということだ。 　ファタハ同様にエジプトにもヨルダンにもイスラエル、アメリカとの間に交わした同様の秘密合意はあろう。しかし、両国の場合はイスラエルとの間に和平条約を結んでいるので、ファタハとは全く違う立場にあろう。

　ファタハをアラブ諸国政府が支持し、あるいは中立の立場をとっているのは、それぞれの国にはそれぞれの事情があるからだ。ファタハをこの段階で全面的に否定し、ハマースを支持することは、イスラエルやアメリカとの関係において、すこぶる危険な選択をするということになろう。 　しかし、問題はアラブのほぼ全ての大衆が、イスラエルとアメリカを敵視し、嫌っているという事実だ。そうである以上、今回ハマースが、ファタハとイスラエル、アメリカとの秘密合意文書を暴露することによって、イスラエルやアメリカに対する敵意は増大し、ファタハとマハムード・アッバース議長に対する信頼は失墜することになろう。

　だからといって、マハムード・アッバース議長が即座に地位を失うわけでもなければ、親米派のアラブ諸国の支持を失うわけでもない。しかし、そのことは悪性の癌のように、次第に、しかも、確実に親米派アラブ諸国の体制を弱体化していくことにつながろう。 　今回のガザにおけるハマースの勝利によって、アラブ諸国の体制は、いずれも時限爆弾を抱えたことになる。その時限爆弾の雷管を抜く方法は今のところあるまい。ノンポリのアラブ大衆もガザでハマースが公開する、ファタハとイスラエル、アメリカの秘密合意文書を見ることによって、体制に対する信頼感を急激に減退させることになろう。

　以前、ハマースのガザ蜂起はアラブ全体に対するクーデターだ、と書いたのはそのことを言ったのだ。同様の解説はインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙も６月２１日付けで書いている。