早すぎるエジプト大使館移転の決断

2007年6月21日

 エジプト政府はすでに、ガザにあった同国の大使館を撤去し、西岸のラマッラ市に移すことを決定し実施した。  確かに、エジプト政府はマハムード・アッバース議長のファタハを支持することを決定した以上、マハムード・アッバース議長が指名し、組閣させたサラーム・ファッヤード新首相のいるラマッラ市に、大使館を移転したのは、理にかなっていよう。

 しかし、エジプト政府がパレスチナの選挙で選ばれ選出された、イスマイル・ハニヤ首相を簡単に見放し、マハムード・アッバース議長が首相に指名し、組閣をゆだねたサラーム・ファッヤード新首相を認め、その彼の内閣を認めるという決定を下したのは、あまりにも早過ぎはしないか。   少なくとも、これまでエジプトはアラブの盟主として、アラブ世界の困難な問題の仲介、解決に重要な役割を果たしてきている。そのエジプトが今回に限って、早期にイスマイル・ハニヤ首相を見放し、新首相サラーム・ファイヤード氏に乗り換えたのは何故か、という疑問が沸いてくる。

 想像の域を出ないが、エジプト政府としては、これまで何度となくファタハとハマースの仲介をしてきたが、全く進展が見られなかったために、仲介を断念したということが考えられよう。  また、エジプト国内のムスリム同胞団の勢力が台頭著しい中で、それを助長するような、ムスリム同胞団を母体とするハマースがガザを全面掌握し、西岸にまで勢力を拡大するようなことは、断固として阻止しなければならない、と考えたのかもしれない。

そうしなければ、ガザにおけるハマースの勝利が、エジプト国内のムスリム同胞団を刺激し、エジプト国内でも過激な行動が起こりうる、危険が懸念されよう。エジプト国内では先に行われた諮問議会の選挙で、政府が選挙に強硬介入し、ムスリム同胞団の立候補者は全員が落選し、与党NDP(国民民主党)の議員がほとんどの議席を独占する結果となった。 この選挙結果は、当然のことながら、エジプト国内では問題視され、国民の中には不満を抱くも者が少なくないようだ。ガザの激変をできるだけ早急に沈静化し、自国内への影響を抑えた、というのが今回のエジプト政府のガザから西岸のラマッラ市に、大使館を移転した本当の理由ではないか。

 いずれにしろ、エジプト国民の間でもパレスチナ人の間でも、不満はますます不満を生むことはあっても、簡単に沈静化の方向に向かうとは思えない。今回のエジプト政府の決定は、ハマース側を追い詰めることになり、ファタハとハマースの間の、西岸地域における戦闘も誘発しかねない、危険につながることになるのではないのか。そうあって欲しくない、犠牲は常に大衆の側が引き受けるのだから。